震災と薬

 虹の家のみなさんから今回は宿題をいただきました。
 3.11のときに薬がなくて困ったという話はきいているけれども、具体的にどのくらい薬がなかったのか。それに対してどんなふうに自分たちは対処すれば良いのか
ということです。
 夕方の事例検討会の最後に、このことを南相馬の事業所のみなさんに伺いました。そうしたら、前回の事例検討会に出席されていた群さんらみなさんがいろいろとお話してくださいました。中澤先生もいろいろアドバイスしてくださいました。それらを総合してまとめると、こんな感じです。

当事者のみなさんへ

せめて2日分は肌身離さず薬を持っている

 当然ながら地震は突然起こります。地震が起こったときに自分がどこにいるか、予測できません。何を持っているときなのか、誰といるときなのか、何をしているときなのか。
 津波の避難も原発の避難も、「すぐに戻ってこられる」とみんな思って着のみ着のままで逃げたのだそうです。そうしたら、それから家には戻って来られない人もたくさんいた。家は流され、放射能で汚染され・・・。
 「そのとき」に薬がどのくらいで届くかは人それぞれです。すぐに薬が届いた避難所にいた人もいれば、やっと薬が支給されるところに行ったら「ここは違う町の人を対象にしています」と断られたり。
 1週間分の薬をいつも持っているというのは無理だし、それでは日常の生活が不便になってしまいますよね。ですから、せめて2日分は、お財布と一緒に持っている。そうするといざというときに、最低限の備えはできます。

やはり、お薬手帳

 お薬手帳の有効性は阪神淡路大震災のときから言われています。

 お薬手帳はできるだけ持っていて、いざというときに、お薬手帳にもとづいて薬を処方してもらえるのがベストですね。画像は、静岡県が誇る防災型お薬手帳です。この手帳にいろいろ必要な情報を書いておくと、いざというときにとても便利です。

 三重県のサイトですがこんなものも見つけました。
http://www.pref.mie.lg.jp/movie/detail.asp?con=3933

 お薬手帳とさきほど書いた2日分の薬とセットで小さな袋に入れておくと安心かもしれませんね。

携帯電話を使う

 でも、お薬手帳はちょっとだけサイズが大きい・・・という人は、携帯電話にときどき処方せんとかそれこそお薬手帳のコピーの写真を撮っておくという方法もあります。
 また、スマートフォンを持っている人は、お薬手帳のアプリを使うという方法もあります。
http://medical.yahoo.co.jp/apps/handbook/
ただ、携帯電話の場合には電源を確保できるかという心配もありますね。 

支援者の皆さんへ

処方箋は事業所などの単位で1冊にまとめる

 3.11の翌日、郡さんの携帯電話に郡さんの施設を利用している方のお母さんから電話があったそうです。家が津波で流されてしまって家に戻ろうと思っても戻れない。まさかのことでお薬に関する情報が何もない。確かその施設に処方箋のコピーを提出したので、そのコピーを見て子どもの処方内容を教えてほしいと。

 うちの施設もあと500メートルというところまで津波が来たんですよ。それに、余震もすごくたくさんあってグラグラしてて・・。私も怖くてたまりませんでした。でも、そうだよな〜と思って、本当におそろしかったけれども、施設に行ってそのコピーを探しました。

 その体験から、お一人お一人の情報として集約していた処方箋のコピーは、加えて、いざというときに持ち出せるようにとすぐ出せるところに施設でまとめて1冊にしたそうです。

 例えばぴあクリニックだとしたら、外来患者さんの処方箋をどうするのか。非常に大量ですし、電子カルテだけに課題は大きいですね。

 ただ、少なくともACT利用の方に関しては、毎回更新は無理だけれども、半年に一度のリカバリープランとストレングスアセスメントの更新時には必ずその方のファイルに処方箋情報を入れて、ACTチーム全員の防災情報ファイルを作成してそこの個々の情報も一緒に更新するという方式をとるのが良いのかもしれません。

固定電話は役に立たないこともある

 防災用情報の集約の上での経験談です。
 確実だしみだりに個人情報を収集すべきではないという観点から、お宅の固定電話だけを把握している場合もあります。しかし、いざというときにはそのお宅に人はいません。そもそもお宅に戻れないかもしれません。
 また、多くはキーパーソンとなる方の電話番号だけを控えていることが多いでしょう。しかし、その方の安否自体もどうなるかわかりません。
 そのため、利用している方はもちろんですがその方のご家族のできれば全員の携帯電話やメールアドレスを把握していると、「いざ」というときには役立ちます。

 このような感覚は、「東海地震が起こる起こる」と言われ続けて40年という静岡県で生活している私たちにとってはあまり違和感がありません。しかし、ご本人とご家族全員の携帯電話番号などの把握というのは、「いざ」というときのためのものであり、ご本人とご家族のプライバシーの保護という点からは問題があるのは事実です。
 このあたりは、各機関やチームで十分検討する必要がありますね。