「何かあったらどうするんだ?」――地域生活支援を行ううえでの2つのベルリンの壁
知らないことにがベルリンの壁に
お昼は、なごみクリニック設立のために奔走された方(からお話を伺いました。
精神科医療機関がなかった相馬。そこに初めて精神科医療機関を設けるにあたっては、大変なご苦労があったようです。
そもそも、どうして相馬市に精神科の診療所を設立しようとしたのか、すでに資源のある南相馬にしなかったのが不思議でした。これは、公立相馬総合病院に臨時に精神科外来ができ、全国からかけつけた精神科医のみなさんによってこれを維持したという経緯*1によるところが大きいようです。
その流れで公立相馬総合病院のすぐ近くの場所に・・・となったのですが、そこには大きな障害がありました。
そもそも精神科医療機関がない相馬です。精神疾患にかかった方、精神障害のある人たちは「怖い」という思いが非常に強かったそうです。今のなごみさんの場所は「通学路じゃないか。子どもが学校に通うところに精神科の診療所があるなんて。何かあったらどうするんだ?」
という声もあったのだそうです。
また、昨日薬局に精神科薬がおかれていない、やっとA薬局が精神科薬を置いてくれたということを紹介しました。これにも理由があって、
「精神の患者がこの薬局に薬をもらいに来たら、お母さんや子どもは危険で薬局で薬をもらうことができない」
という声が本当にあったようです。そのような理由で精神科薬を置こうとしない薬局もある中で、いち早く精神科薬を置いてくれたA薬局の英断はいかにありがたかったことか。確かにA薬局に「恩がある」といえますね。
単なる「在庫」の問題ではなかったのだと改めて認識しました。
でも、私も他人のことをとやかく言えないかもしれません。寒さに弱く、冬の東北とか大雪とかに慣れていない自分は、先週は実はかなり不安で緊張していました。札幌生まれの例えば佐々木さんだったら、「フツー」のことが、私には本当に生死を分けるような恐ろしいことのように思えます。私だって、精神障害のある人との接点がほとんどないままPSWの実習で帯広に行く時には、本当に不安でした。自分も帯広で病気になったらどうしよう・・・そう思ったのも事実です。
知らないことによる不安というのは、厄介なものです。
でも、だからこそ、地域でいろいろな人が生活して、地域の人が「いろいろな人がいていいんだな」と思えるようになるといいですね。
慎重論がベルリンの壁に
そして、もう一つ厄介なのは、「慎重論」という名の現状維持あるいは抑圧というものだと思います。
「何かあったらどうするのか?」
昨日の重度の精神障害のある方の一人暮らしも同様です。
もちろん、リスクマネジメントは大切です。見込発進による失敗もあるかもしれません。でも、「何かあったらどうするのか?」という、非常に無限定な一般的な問いかけに対策を講じることは困難を伴います。それを問うことで、一つのささやかな試みがつぶされてしまう。
そういう傾向に対して、私たちはどんな手段を用いるのか。どうやってそこを乗り越えるのか。とても難しいけれども、とりあえず「何かあったらどうするのか?」という言葉のもつ抑圧的な側面に自覚的になることは必要でしょう。
今回は、いつの間にか、「精神科医療機関がなかった相馬」というテーマで書くことが多かったようですね。でも、どんな地域でも起こりうる問題も多く含まれていたように思います。
次回、最後の支援は3月10日から12日。図らずも3.11をはさむこととなりました。風邪をひかず、疲れに負けず、またなごみさんに伺いたいと思います。
なごみさんのみなさん、おじゃましました。
ありがとうございました。
ぴあクリニック・ぽっけのみなさん、留守のあいだ、ありがとうございました。
明日からまたよろしくおねがいします。