一人暮らしへの「ベルリンの壁」

 では、「親なきあと」、そのような人たちはどうなってしまうのでしょうか?

 まさにそれを問う事例検討会に、午後出席させていただきました。
 昨日とは異なる検討会でしたが、家族との同居ができなくなり、かといってグループホームでの集団生活になじめず、「警察のごやっかい」になることしばしばという方でした。問題提起した方が、
「このようにグループホームでは過ごせない、かといって家族との同居もできない人は、どうしたらいいのでしょうか? 入院・入所しかないんでしょうか?」
と投げかけられていました。

 その支援者の方は、アパートでの一人暮らしが良いのではないか・・・と何回も思ったそうです。しかし、「警察のごやっかい」になっている人、精神障害のある人だけに、保証人は誰がなるのか、そんな人を入居させてくれるのか、夜間になにかあったときに、誰が責任をとるのか。実際のところ他県の警察から夜に電話がかかってきて、「今すぐ引きとりに来てくれ」と言われて引きとりに行かれたこともたびたびあったとのこと・・・。

 ただ、「警察のごやっかい」というのは凶悪な犯罪を犯した(だったら逮捕ですものね)わけではありません。グループホームにいられず電車好きな人でもありふらりと出かけてしまい、その挙句・・・というパターンが多かったそうです。この人にとっての安心して帰れる場ができれば、同じことの繰り返しにはならなさそうです。
 また、自分の不安や不満を職員に訴えることはできる力のある人でもあります。日中活動の場として作業所に通うこともできる人のようです。職員と話しながらではありますが、お弁当をつめる仕事を継続して行えたというのだから、かなりの仕事ができそうですよね。
 当時主治医だったドクターからは、「彼の生活しやすい環境を整えることが一番」と言われたそうです。

不動産会社を味方に

 発表と質疑応答ほかいろいろ伺いながら、ぴあクリニックで私たちが支援しているいろいろな一人暮らしの方の顔が浮かびました。実にたくさんの人が一人で暮らしていらっしゃいます。
 最後にその方から、「どうですか? 静岡だったらこういう方はどうなりますか?」と尋ねられたので、「ぴあクリニックのACTでは、警察のごやっかいという人はほとんどいないのですが、もっと重度の方でも一人で立派に暮らしています。一人になると良くなるという感覚が私の中にはあります。
 行動を起こす、その責任は自分ではない「誰か」が担うという仕組みだと、なかなかその人は自分の行動を振り返らないし、責任を負う「誰か」はその人に陰性感情を抱いてしまう。
 でも、一人暮らしとなると、自分の行動は自分で責任を追わなくてはいけない局面が多くなる。自分でいろいろなことを決めていかなくてはいけなくなる。そういうことで、良くなるみたいです」
とお伝えしました。

 また、保証人はいなくても家賃を上乗せすることで部屋を借りられる仕組みがあることほか、ぴあクリニックで行っている不動産探しのノウハウをある程度お伝えをしました。地域性もあるので、全てが同じようにいくのかはわかりませんが、その方からはとても喜ばれました。
 
 ネックはやはり、万が一その方が再び「警察のごやっかい」になったときの引き取り手のようです。
 ぴあクリニックではそこまでつめませんが、なにしろ今までの経緯があるため、そこが大きなハードルとはなりそうです。

 司会をしていた廣田さんが言われていたけれども、このような事例を積み上げて、地域のニーズ、課題として挙げていく、警察の生活安全課などといろいろ検討していく、行政も巻き込んでいくことが求められていくのでしょうね。

 あまりにも有名なこの言葉を思い出しました。

リカバリーにとっての障害は実に多い。しかしその中でも最大の障害は単純なこと−わたしたちはリカバーしないと多くの人が考えていることなのである」
                ダニエル・フィッシャー

 この事例の場合は、「警察のごやっかい」に対する身元引受という課題を解決しなければいけないので、やむをえないとは思うのですが、きっと「一人暮らしなんて無理だ」という理由でやむなく入院、やむなく施設というケースはまだまだ各地であるのでしょうね。「リカバリー」を「一人暮らし」と置き換えられるなあと思います。

 そういう意味では、一人暮らし支援の実践例、一人暮らしをすることの意味を一人暮らししているみなさんや私たちぴあクリニックの支援者などが、もっともっと発信していかなくてはいけないのでしょう。

画像は鹿島福幸商店街にある、双葉食堂のラーメン。以前は小高地区にあったのですが、原発災害のために避難、こちらで再開しています。